會津八一記念博物館館長 肥 田 路 美(文学学術院教授)082021年度が始まっても依然としてコロナ禍は収束せず、緊急事態宣言が継続され国立各館をはじめ都内各美術館が休館するなか、會津博物館ではウィズコロナを前提にしながらも、展覧会事業を当初の年間計画通り全うすることができました。まず企画展示については、3月から年度を跨いで52日間にわたった「松丸東魚篆刻作品等受贈記念 萬象、一刀の中にあり―篆刻家・松丸東魚の仕事」展を皮切りに、春学期には「受贈記念 コレクター寺田小太郎―難波田龍起、相笠昌義を中心に」、夏休み明けからは「山内清男コレクション受贈記念 山内清男の考古学」、さらに12月から1月末まで「小もの展 ―會津八一の蒐集からみるひと・もの・こと」を開催。いずれもジャンルや切り口が大きく異なり、当館の多様なコレクションをそれぞれの文化史的、芸術的位置づけを示しつつ公開する場となりました。「萬象、一刀の中にあり」は、昭和期に活躍した篆刻家、松丸東魚の作品や関係資料1,382点を2019年に一括受贈したもののうち、東魚刻印や中国の古印を模刻した橅刻印をはじめ、印譜、木活字、制作用具など125点を展示しました。準備に当たっては広く学内外の歴史学、中国文学、書法史、演劇史の専門の先生方の協力を仰ぎ、学術的にも充実した展覧会図録になったものと自負します。会期後半は東京都の緊急事態宣言を受けて、学外の方々の観覧はご遠慮いただく対応を取らざるを得ませんでしたが、それでも約2,600人の来場があり、増刷した図録の販売も好調でした。近代美術部門の「コレクター寺田小太郎―難波田龍起、相笠昌義を中心に」は、戦後日本美術・現代アートの有数のコレクターであった故寺田小太郎氏のコレクションから150点余の作品を受贈したのを記念した展覧会で、昨年5月に開催を予定して図録の印刷も終えていましたが、コロナ拡大のために丸一年延期を余儀なくされ、ようやく実現を見たものです。会期を前後に分けて一部の展示を入れ替えながら、独自の画境を築いた表題の二人をはじめ、難波田史男、加納光於、鈴木竹伯、李禹煥など幅広い作家たちの優品をお披露目しました。「山内清男コレクション受贈記念 山内清男の考古学」は、先年受贈した「日本先史考古学の父」として知られる山内清男博士の10万点を超える厖大な研究資料のうち、データベース科研を得て整理を終えたものを中心に公開を企画したものです。博士の研究の足跡をたどご挨拶り、特に縄文時代研究の方法論がどのように確立されたかを、多くの原稿や紙焼き写真、縄文原体などを通して跡付けました。この展覧会は本庄早稲田の杜ミュージアムに巡回展示され、より多くの方々に観覧していただくことができました。また展覧会にあわせて、シンポジウム『山内清男と縄紋文化』を10月11日に小野記念講堂で開催できたことも喜ばしく、縄文時代研究の意義と展望について5名の専門家による講演と熱い討議が繰り広げられました。世間の大方の学会や講演会がオンラインで行なわれているなかで、参加人数を制限し感染予防対策に神経を使いながらも一堂に会して実施できた意義は大きく、尽力くださった方々に感謝いたします。年度最後の「小もの展―會津八一の蒐集からみるひと・もの・こと」は異色の企画で、これまで一度も展示されることがなかった種々雑多な資料―模造品、民芸品、残欠や断片といったモノに焦点を当てて、どのような意図で蒐集されたのか、そこから何がわかるかなどについて考える展示が、たいへん反響を呼びました。ユニークなデザインの展覧会図録も好評で、例年最も来場者数が少ない冬場の会期にもかかわらず、多数の来観者を得ました。図録を制作・刊行するこれらの展覧会の他にも、富岡重憲コレクション展示室では「人のかたち」「しつらいの美」「青磁・白磁と単色釉磁」「近世の禅書画―東嶺・遂翁と春叢―」「茶のやきもの」「身近な動物たち」と、それぞれのテーマのもとに構成した作品を各約40日間の会期で展示、また近代美術展示室では、貴重な寄託資料を中心にした「はじまりの渡欧画家・川村清雄と近代洋画の挑戦者たち」を春学期に、また秋学期には一昨年に公開した大社コレクションのアンコール展示をおこないました。さらに、11月末からはグランドギャラリーにおいて、墓葬関係の美術や考古資料、安藤更生らによるミイラ研究の資料などを集めた特集展示「死と祈り」を開催しました。このほか館蔵コレクションや展覧会を紹介解説する連続講座、企業の外国人社員を対象とした日本文化研修の受託事業、會津八一に関する講演などのアウトリーチ的活動をいずれも対面でおこなうことができたのは、コロナとの共存の術を当館も世間も徐々に身につけてきたからこそです。今後とも會津博物館へのご支援ご指導をよろしくお願い申し上げます。2021年度の會津八一記念博物館會津八一記念博物館
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